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 季節は、梅雨も半ばを迎えていた。  祖母は腰を悪くして外に出なくなった。父は相変わらず家にいない。僕はといえば、サッカー部に入り日々練習に明け暮れていた。身体を動かすことでストレスの解消にもなるし、何より、帰るのは日が暮れてからになるので、あの家にいる時間が減る。クラスメイトとも徐々に交流を深めていた。  喜ばしいこと、なのかもしれない。しかしいつも、人と深く交わることは、僕に一つの痛みを突きつける。  ――母ちゃんがさあ。  悪気なく、友人たちは笑顔で僕を突き刺す。昨日お母さんとさあ。母ちゃんの弁当がさ。これ母さんが勝手に買ってきて。ねえ。ねえねえ。君のお母さんはどんな人?  ああ、死んだんだ、というと大抵の子は黙る。「ごめんね」などと言いながら。その気まずそうな顔を見て、あのときよりはずいぶんマシになったじゃないか、と僕は思う。小学四年のあのとき。お前んちリコンしたんだってな、母ちゃんほかの男んとこ行ったんだってな、とニヤニヤ笑いではやし立てられて、泣きながら走って帰った、あのとき。  ――ああ、そう言えば。  花壇に埋めた二個のジャガイモを思い出す。母親にまつわる嫌な目に遭うたび、記念品のように増えたジャガイモ。あれはいったいどうなっただろう。埋めたっきり、存在を忘れていた。  僕は花壇を確認することにした。玄関のドアを開けると、雨が降っている。黒い傘を差して外に出ると、塀のそばの花壇の前に行った。鮮やかな紫の桔梗が咲いている。 「……これか?」  もっさりとした緑色の葉っぱが、小型犬ほどの大きさに茂っている。その中心に、白い花が群れ咲いていた。そばには、干からびた同じ植物と思しきものが横たわっている。根っこに見慣れた茶色の瘤があった。まだ祖母が花壇の手入れをしていたころにやられたのだろう。 「ってことは、ジャガイモの……?」  見慣れない可憐な花の正体を、僕は突然突き止めたくなった。最近は部活で帰りが遅く、日が暮れてからしかあの道を通れていない。まだ日のあるうちに、くらげさんの畑を見てこようと思った。同じ花が咲いていれば、これはたぶんジャガイモで決定だろう。
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