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そう言えば、と僕は思ったことを口にしてみる。
「ジャガイモ、食べるために育ててんじゃないの? ここの野菜もさ。配るくらいなら、少しだけ育てりゃいいじゃん。楽だし」
「食べるよ。ちゃあんと。投げ返されたのも。全部いただく。でもねえ、もし貰ってくれた人が、ちょっとでも幸せになりゃ、嬉しいやろ」
くらげさんは僕に背を向けて、畑に戻った。畝の間に倒れていた鍬を持ち上げ、小さな穴を掘ると、持っていた花をその中に入れる。
「嬉しいなら、自分から取りに来るだろ。適当に箱に入れてその辺に放っときゃいいじゃん」
「物が欲しい人はそれで良いやろ。でも、そうでない人もいるかもしれん」
冷たい雨に指を浸しながら、くらげさんは横死者のような花々を拾い上げる。ゆっくりと、丁寧に。
「投げ返せる元気があるなら良いんや。物さえ貰えりゃ満足できる人もなあ。やけど、そうでない人もおるから」
拾い集めた花を、くらげさんはまた小さな穴に入れた。まるで敬意を払うように、念入りに土をかける。
「役に立たんでもいいんや。ごくたまにでも、それで咲くものがありゃあ」
花の埋葬を終え、屈めていた身を起こした。腰を何度か叩いて、自らを打つ雨を見上げる。
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