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「良い雨や」
何か、とてつもない思い違いをしていたのだ。僕も、祖母も、そしてみんなも。くらげさんは最初からそれに気づいていて、そして、それとは言わないままずっと穏やかに微笑んでいた。
僕が何も言えないでいると、お定まりのように、くらげさんはすっと片手を差し出した。
「ジャガイモ、採れたてやで」
僕は、泥だらけで濡れたそれを躊躇なく受け取った。
「……ありがとう」
雨が当たったジャガイモから、筋になって泥水が流れた。少しずつ少しずつ、泥のベールがはがれていく。じっと見ていないと気付かないほどに、時間をかけて。
「あの……明日も貰いに来ていいかな」
いつか貰った、あの泥だらけのジャガイモは、日の当たらぬベッドの下でさえも芽を出した。貰ったことすら忘れるだけの時間をかけて。人知れずゆっくりと、でも確実に。
「いつでもおいで」
芽吹いても、引っこ抜かれれば干からびる。それでも彼女は種を蒔き続けた。
いつかは花咲く日が来ると信じて。
ただの隣人たちに咲く花を夢見て。
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