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息を切らせて帰宅した孫に、祖母は「どうしたん」と言った。ぼくがくらげさんとのことを話すと、祖母はくらげさんよりも随分と色白の肌に、無数の皺を寄せる。口を歪め、冷ややかに笑いながら。
「ああ、田村んとこの。小・中と同級生やったけど、生まれつきアレなんよ。あんなババの息子んとこに、よう嫁なんか来たわねえ。やけどやっぱ、あんなとこ来るだけあって、よう働かんて噂やわ。家に引きこもってばっかりでね。何してるんやら。あんなんに育てられて、あそこの孫、おかしならんのかねえ。ほら最近、いきなりキレる子が――」
「宿題あるから」
僕はさっさと話を切り上げ、二階の自室に向かった。さっきとはまた違う、嫌な感覚があった。
この家は、くらげさんのうちより新しく大きい。しかしくらげさんの家より、うすら寒くて無機質だった。ワイドショー漬けの祖母だけが、べったりととり憑いたように一日中家にいる。父が帰るのは、僕が寝るころか、寝たあとだった。
ランドセルを放り、着替えもせずにベッドに寝転がる。その時初めて、まだ右手にしっかりとジャガイモを握りしめているのに気が付いた。指が土で汚れている。そっと手の力を抜くと、またジャガイモは落ちて、フローリングの床を転がった。何をする気も起きない。いつの間にか寝たぼくは、それきりジャガイモのことなど忘れた。
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