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 母が他界したのは、その三年後だった。  今から二か月前、中学校に入学してすぐ、母は交通事故で息を引き取った。ゴミ出しをしようと道に出た途端に軽トラックに轢かれた、らしい。その葬式に、僕は来賓として招かれた。広い会場で、少なくない客が弔問に訪れている中、家族として対応していたのは、初めて会った母の夫とその両親、そして、まだ二歳になったばかりの異父兄弟だった。どの人も皆、僕に優しくしてくれた。促され、遺影の前に進み出る。綺麗に整えられた髪に、ふっくらとした頬。母の記憶はすでに曖昧になっていたが、それでも、きっと僕といたころの母とはずいぶん変わったのだろうと感じた。その証拠に、母は笑っている。朝から晩まで嫌味を垂れ流す義母や、それを「悪気がないんだから」の一言で片づける夫に囲まれていなかったのは、明白だった。  ふと、僕がこの家族でいられたなら、と考える。現実味に欠けた残酷な妄想は二秒で終わった。  父も祖母も、来なかった。  曇天の中、僕は歯を食いしばって歩く。家に帰りたくない。あれは、帰るべき家じゃない。そう思いながらも、結局はそこに戻るしかない現実に、今までにない苛立ちを感じていた。  母も母だ。僕がいるのに、なぜ離婚なんか。子は鎹という。ならば僕は、鎹にもなれなかったのか? 父だって、たまには残業を切り上げて早く帰るなんてそぶりすら見せない。二人して僕を、言外に無用だと示している。
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