――あるいは、盲目の魚

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「ほかの魚と比べるからだと思いますよ。比べなければ幸せも不幸もないんじゃないですか? 住んでるとこが違うから、比べられないっていうか。ヨミノアシロ自身、見えたいなんて思わないでしょうし」  ――ほかの魚と比べるから。  なぜか無性に、この言葉が心に刺さった。 「そうかも知れないな。海にはいろんな場所があって、いろんな魚がいるんだもんな」 「見えないことで広がる世界もあるだろうなって思います。どんな気持ちで泳いでるのか、どんな生活をしてるか、考えるとワクワクしますよね」 「逆にヨミノアシロは、目が見える奴らは可哀想だなって思ってたりしてな」  見えるから、煩わしいこともある。見える者同士比べ合っては、皆でしがらみを作っていく。そんな世界を、ヨミノアシロならどう感じ取るのだろう。 「あ、これいただきます」  お茶に口を付けた後、壮太がクッキーに手を伸ばした。潰れたタコのような形のそれが、小気味良い音を立てて彼の中に消える。 「美味しいですね」  お世辞など感じられない笑顔が、まっすぐにそう告げた。  ああそうだった、と俺は思い出す。  見た目はいまいちだけど。不揃いでいびつで、あちこち欠けているけれど、それでも。  ――綾香のクッキーは、とても味が良いんだ。
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