――あるいは、盲目の魚

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「さあ、これ飲み終えたら片づけ手伝うよ」  言いながら、黒く揺れるコーヒーに目を落とす。  俺はあの日以来、彼女に対して対等ではいられなくなった。常に引け目を感じるようになったのだ。 「大丈夫、ゆっくりしてて。明日は二人分の夕食と、クッキーか何かでも焼いておくから」 「手間かかるだろ? 気にするなって」  ――せめて良い夫でいなければ。  病院で男性不妊と告知されたときから、常にこの考えが付きまとっていた。強迫観念とさえ言っていい。だからこそ俺は、この子守を引き受けたのだ。  ちゃんと彼女を喜ばせることができるのだという実感を、いつも味わっていたかった。
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