53人が本棚に入れています
本棚に追加
もじもじと座り方を変える。
「勇人はすごく優しくて、一緒に暮らしてても……オレは勇人を父親とは思えなくて、一人の男性として見ていた。母親に嫉妬心覚えたりして、どうしていいのかわからなくて。毎日苦しかった」
「好きになった人が、好きになっちゃいけない人だったのか。辛すぎるね……それ」
「うん……。でも問題はそこからなんだ」
碧はストローをグラスから外し、グラスから直接メロンソーダをゴクゴク飲むと、躊躇いながら重そうに口を開いた。
「再婚して一年くらいした頃、勇人が……浮気したんだ」
「浮気!?」
なんかドロドロしてきたぞ……。僕は男女の重い話題は苦手なんだが。そう思っていたら、意外な一言が碧の口から発せられた。
「それも男と」
「!?」
あの真面目そうな古澤さんが浮気というだけでも信じられないのに、相手は男性……? 碧はさぞかしショックだったろう……義理の父親ってだけでハードルが成層圏に届きそうなほど高いのに、浮気相手まで現れるとかもうハードルは月まで到達してしまう。
「……その浮気がバレて、色々あって勇人が出て行って、別居状態が半年くらいあって、一年半前くらいに離婚成立した」
僕は思わず碧の頭を抱き寄せると、色素の薄いウェーブのかかった髪をぐりぐりと撫でまわした。
「大変だったんだね……碧」
「な、やめろって、明樹! 別に……そんな大変とかじゃねーし。離婚は却ってオレにはよかったし。母親がライバルじゃなくなったんだから」
まとわりついた僕を碧は引きはがした。照れたように視線を外す。気が強いくせにこういう反応はかわいいのだ。
「そうか。問題はその浮気相手か。相手はどんな人かわかってるの?」
「ん……勇人の同僚だった人で、同じパティシエで」
パティシエ……?
「勇人とのことが表沙汰になって、ホテルを辞めたんだ。今どうしてるかは知らないけど」
鼓動が早くなる。昨日出会った古澤さんと坂井さんは仲がよさそうだった。まさか……ね。
最初のコメントを投稿しよう!