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「母親は、勇人にはもう会っちゃだめってどこに引っ越したかも教えてくれないし、仕事場に顔出すわけにもいかないしさ。会いたいってメッセ送っても会えないって返事来るし」
昨日会った古澤さんは、碧のことを事細かに聞いてきた。古澤さんは碧と会いたくないわけじゃないと思う。逆に会いたいのを我慢している感じだった。碧のお母さんのことは聞いてこなかった。
「碧は、古澤さんと……どうなりたいの?」
ぶはっ! と碧はメロンソーダを吹き出す。
「ゴホッゴホッ! な、な、なんだよ明樹っ!」
「ちょっと、もう! ほら拭いて」
碧は真っ赤な顔をして慌ててお手拭きでメロンソーダを拭く。
「古澤さんと恋人になりたいの……?」
僕の質問に碧は思いつめたような真剣な表情になった。僕の目を見返してくる。
「オレは、勇人が好きで……好きで、毎日逢いたいし、抱きしめてもらいたいし、できたら恋人になりたい。それで将来的には結婚したい。愛されたいし、愛したいんだ。オレが勇人の支えになりたいし、勇人もオレを頼ってくれたら……そんな関係が夢なんだけど。そんなの夢のまた夢だけど……さ」
碧のいじらしい片思いに、僕は切なくなって鼻の奥がツーンとして涙がこみ上げるのを感じた。テーブルに落ちた水滴を爪の先でいじって気を紛らわしなんとか堪えた。
「碧……」
僕はどうしたらいいのだろう。応援するのは簡単かもしれないけど、もし二人がうまくいったら碧のお母さんを傷つける。浮気相手の人が浮気じゃなくて本気だったらその人も傷つける。そんな茨の道に進む背中を僕は押せるのだろうか……。
「明樹……、ごめんな! とりあえず知ってもらいたかっただけなんだ。オレの想い。明樹が悩まなくていいから」
「うん……。碧、話してくれてありがとう」
「さてさて、明樹の話を聞こうかな? まだ勇人と出逢った時の話聞いてなかった。あとフォロワーさんが知り合いだったことも」
「……! あ、もうこんな時間じゃん! 母さんに頼まれ事されてたんだった。ゴメン、もう帰らないと!」
「オレもそろそろ帰らないとだったぁ。風呂掃除オレの当番の日だ。めんどー」
「じゃ、また明日……あ、今日金曜だからまた月曜日にだね」
「土日は用事あんの?」
「今日借りた本をこの週末で読み終えたいんだ。だから引きこもり」
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