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「ははは、若さには勝てないよ。ひらめきのスピードが違うよね。さて、お昼も過ぎてるしランチにしようか」
「頭も使ったのでお腹すきましたね」
「ちょっとチェックしたいお店があって、付き合ってもらってもいいかな? 目白だからすぐ近くなんだけどスイーツのお店だから、その前に近くで軽く食べていこうか」
デパート裏手のシネコンビルの地下にカフェテリアがあり、そこで食事をしてから、地下街の駐車場にとめてある坂井さんの車に移動した。
「どんなお店に行くんですか?」
「人気のあるパティスリーなんだ。下落合だから近くだよ。世界的なコンクールで準優勝したパティシエのお店で、ちょっと偵察しておきたかったんだ。ごめんね、連れまわして。あ、これって高校生連れまわしとかニュースになるやつ!? 犯罪!?」
僕は思わず吹き出してしまう。真顔で心配する坂井さんがかわいい。
「職質されたらちゃんと事情説明するので! 大丈夫ですよ」
「その時はよろしくね、明樹君」
都心の道路は混んではいたが、スムーズに目的地に到着した。パティスリーの近くのパーキングに車を停めて、歩いてお店に行ってみると若い女性たちが並んでいて、店内のカフェはとても利用できそうになかった。
「すごいな……こりゃ無理そうだね。でもせっかく来たんだしカフェは無理でもケーキだけでも買って帰ろう」
「そうですね」
女性たちに混じって並び、十分ほどでケーキを買うことができた。一つ一つが宝石のように美しく斬新なデザインで、絶対美味しい予感。
ケーキを選ぶ時の、坂井さんの真剣な目が脳裏によみがえる。いつもは紳士的で優しい雰囲気だが、ケーキを見つめる視線は物質を解析する科学者のような、大理石を前にした彫刻家のような、何かを見出そうとする創造主の瞳。僕は思わずケーキではなくその瞳に見入ってしまったのだ。
購入したケーキは八個。全種類購入したかったそうなのだが、食べきれないし、時間がたってしまうとどうしても味が落ちてしまうので泣く泣く諦めたようだ。
「お店で食べられなかったから、うーん、どうしようかな」
「どこか公園とかで食べてきますか?」
「美味しい紅茶がないとなぁ。そうだ、明樹君がよければ私の部屋に来ない? うちで食べようよ。紅茶を淹れてあげるよ」
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