53人が本棚に入れています
本棚に追加
熱いのを我慢して作るからキレイなのかな。すごい……こんな我慢強くてキレイなものを作れる人がパパだったら。
その日から心の中に白いコックコートを纏ったそのパティシエがパパとなって住み着いた。妄想のパパ。
小学校で悪口を言われたときは、妄想パパが頭を撫でてくれる妄想をする。母親には心配かけたくないと子供心に思っていたので、祖母に頼れないときには妄想パパで紛らわした。母が買ってくれたコックさん姿の犬のぬいぐるみがその化身だった。
今考えると、寂しい子供時代を送っていたんだな……としんみりする。もっと母親に甘えておけばよかったのかもしれないけど、今更過去には戻れない。
リプライにすぐリプライがきた。相手はタイムラインにいたようだ。
『あれが好みなら、似た感じの電子化もされてない絶版本があるんだけど、よければ今度貸すよ。DM(ダイレクトメール)するね』
『再録されないで埋もれてる名作ってありますよね、ミステリって。貸してもらえると嬉しいです。DM了解です』
「明樹ちゃん、今日学校の帰りに駅前のデパート寄ってお直しのスーツ引き取ってきてくれない? 母さん閉店時間までに間に合わないのよ」
「別にいいけど」
「ついでにデパ地下の梅園で抹茶あんみつ買ってきて~」
「……太るよ」
「もう、わかってるわよ! 自分へのご褒美なんだからたまにはいいでしょ?」
「はいはい、買ってくるって」
母親に今朝頼まれたお使いに、高校の最寄り駅池袋のデパートに放課後寄っていくことにした。四階のお直しカウンターにエレベーターで向かう。夕方のデパートは混みあっていてエレベーターは複数あるのになかなか来ない。やっときたエレベーターに女性たちにまじりなんとか乗り込むと、制服姿の男子高校生は悪目立ちしている気がして、隅っこで小さくなりながらわざと見えるようにお直しカウンターの控えを手に持って、なんで男子高校生が婦人服売り場へ? という疑問に一目でわかるように答えを提示した。
お直しの母のスーツを引き取りデパ地下へ。頼まれた抹茶あんみつを購入し、再度エレベーターに乗ろうと思ったが、階段が目に留まり階段を使うことにした。
最初のコメントを投稿しよう!