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「なんだ、幸太の知り合いだったのか。高校生泣かせるなよ、色男」
「違いますよ、古澤さん! あんたほどモテませんからね」
妄想パパは古澤さんというらしかった。階段で衝突した方はそうすると坂井さんか。古澤さんは筋肉質で身長も高く西洋顔の大人の男。坂井さんは中肉中背で古澤さんより若く、知的そうなイケメンだった。
「いえ、からだは大丈夫だと思います……ただ」
「ただ?」
「さっきの衝突で母の頼まれ物の抹茶あんみつがダメになってしまい」
紙袋を開いて見せると、坂井は両頬に手を当てて青ざめた。
「ごめん! これ梅園のだよね! 今すぐ買ってくるから! 弁償するから! ほんとごめんね。あ、佐藤さん梅園に内線入れて取り置きしてもらって。抹茶あんみつ2個!」
「了解しました。すぐ確認します」
アシスタントの女性が電話で問い合わせてくれたが、抹茶あんみつはすでに完売していた。
「あちゃー……売り切れとは。どうお詫びしたらよいか。あ、ちょっと待ってて!」
彼はキッチンスタジオに戻ると、先程のレッスンで残ったフルーツと材料を使い、あっという間にフルーツタルトを作った。それはスイーツなど作ったことのない僕にとっては魔法のように思えた。
「あり余りの材料だけど、素材は一級品だから! このマンゴーとか宮崎産だし、シャインマスカットは山梨産、カスタードクリームのバニラビーンズはマダガスカル産で。これで代わりにはならないかもしれないけど持っていって」
「え! そんな、悪いですよ」
「いやいやいや、私が全面的に悪いんだから。あ、送っていくね。遅くなってご家族が心配しているよね。あ、佐藤さん後お願いしてもいいかな」
「了解しました。あ、今保冷剤とかお持ちしますね」
「助かるよ。あ、古澤さん、彼を送ってから送りますから」
「坂井、俺のことは後回しでいいから。そういえば君のその制服、煌賀学園の制服だよね? 何年生?」
妄想パパ……じゃなくて古澤さんがなぜ僕の高校の制服を知っているのか、そういえば自己紹介もしていなかった。
「あ、すみません、自己紹介まだでした。桃山明樹十六歳、煌賀学園一年生です。古澤さん、なんでこの制服……?」
「ああ、息子が通ってるんだ。知ってるかな? 桜川碧って一年生なんだが」
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