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「碧の!? 同じクラスで友達です! あ、離婚した二人目のお父さんて、もしかして……!?」
古澤は頭を掻いて苦笑いした。
「一昨年、離婚してね。碧は奥さんの連れ子だったんで血の繋がりはないんだが」
世の中って僕が思っていたよりかなり狭いんだな。まさか妄想パパが友人の元父親だとは……。ミステリの序章のように蜘蛛の糸が張り巡らされているみたいだ。
「へえ、すごい偶然だね! 新本格なら何人も死にそうだ。私も自己紹介させて、明樹くん。私は坂井幸太。古澤と私はパティシエなんだ」
新本格!? その単語が気になってその後はなぜかソワソワというかフワフワというか、広い砂漠で宝石を見つけた時のように気持ちがざわついた。でも結局帰りの車では「新本格ミステリのファンなんですか?」とは坂井さんに聴けなかった。古澤さんが、学校での碧の様子を事細かに聴いてきたからだ。確か数年しか親子関係ではなかったと聞いていたのだが、ここまで気にかけてくれる人がいるなんて……碧が少しうらやましくなった。
「……おは。明樹、昨日勇人に会ったの?」
「碧! そうそう、すごい偶然なんだけど碧のお父さんだって聴いてビックリだよ。連絡あったの?」
「メッセだけ」
テンションが低い対応のこの桜川碧は同級生でクラスメイト。そして幼馴染だ。よく預けられていた祖母の家の近所に住んでいたので、たまに遊んだりしていた。二人とも母子家庭なのも共通している。碧は男子だが、見た目がロシアの美少女みたいに色素が薄くて儚い感じで、すごくモテそうなのに、なかなか辛辣な言葉を吐くので女子にはちょっと距離を置かれたりする。
碧はトークアプリの画面を僕に見せて、『元気にしてるか? 今日偶然、碧の友人の子に会ったので、近況を聞いてみたよ』と、メッセージを読み上げた。
「それ…だけ?」
「そ。でも、オレが会えないのに明樹が会うとかマジありえないんだけど……。オレ勇人と会っちゃダメなのに! 母親から禁止令が出てて。あのクソババア!」
「碧っ! お母さんをそんな言い方……。ほんとギャップがひどいな碧は」
「明樹はホントいい子ちゃん、だ・よ・ね!」
言い方に棘がある。ほんとにもう。その天使みたいな髪をぐしゃぐしゃにしてやりたい衝動にかられるが、なんとか心の中だけで治めた。
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