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教室に入ると、まるで私が来るのを待ち構えていたかのように、中年の男の先生が目の前に立っていた。その顔には見覚えがある。私が小学生の時にクラス担任をしていた先生だ。彼は私を見ると目を見開き、「早く帽子を脱ぎなさい」と大きな声を飛ばしてきた。
私ははじかれたようにそれを脱ごうとする。しかし私がいくら腕に力を入れても、それは強力な接着剤で頭に張り付いたようにびくともしなかった。おそらく誰かが、帽子が脱げないように魔法をかけたのだ。
私が帽子を脱ごうとしてもがいている間にも、教室内のざわめきは大きくなってくる。
「何をしているんだ。早く帽子を脱ぎなさい!」
私を叱責する先生の声。
「だっさい帽子」
「変なやつ」
逃げ道を塞ぐように私を取り囲んだ生徒が私をからかう声。
それ以外にも遠くの方から、くすくすという無数の笑い声が無遠慮に私に浴びせかけられる。私が帽子が脱げないでもがいているのを見て、四方八方から聞こえる薄汚い笑い声は勢いを増した。
そのうちに、帽子を引っ張ていた両手は、私を嘲謔する声から身を守るように私の両耳の上に置かれる。それでも私を攻撃する声はなおもボリュームを上げ続け、私の両手を易々と貫通し私を内側から痛めつけた。
私は目を固くつむり、神様に祈るように呟いた。
「もうやめて。もう黙って」
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