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その瞬間、教室内がしんとした。静寂が数秒間続いたことを肌に感じた私はそっと両耳から手を放し、恐るおそる目を開いた。
視界に映ってきたのは、相変わらずこちらを遠巻きに見ながら、あるいは指をさしながら薄ら笑いを浮かべ、口を開いている生徒たちの姿だった。だが無声映画を観ているように、私の耳には何も聞こえてこなない。
私は魔法を使い、自分の耳から聴覚を失わせたのだ、と私は直感した。両の掌を見てみると、べっとりとした赤い液体が付いていた。おそらく鼓膜を破った拍子に耳の穴のどこかを傷つけ、そこから出血したのだろう。怖くはなかったが、痛みがないことを不自然に感じた。しかしその不自然だという感情すらも、彼らの声の攻撃を防いだという達成感に上書きされ、すぐに消えてなくなった。かつて私の耳を劈いた彼らの嘲笑も罵声も、今の私には届かない。これなら、我慢できる。
気が付けばそこは、私がかつて在籍していた小学校の教室であった。
人混みを強引にかき分け、私は自席に着く。教室の最奥、窓際の席だ。これでもう彼らが視界に入ってくる事もなくなった。あとは窓から校庭の様子を眺めていれば勝手に時間が過ぎ、やがて帰りの時刻になる。
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