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なんだか勝った気がする。それで自然と笑みがこぼれた。ただ、未だに止まない耳からの流血だけが鬱陶しかった。
不意に右肩を2回、軽く叩かれた。私の後ろには誰もいないと思っていたのでとても驚いた。
振り向くと、私より背の小さい男の子がそこに立っていた。男の子は前髪を目の上の辺りまで伸ばし、軽く梳いた横髪の間からは耳が控えめに顔を覗かせている。なぜだか彼の顔はかすんでいて、表情まで見ることはできない。
彼は無言のまま私の顔に手を伸ばす。とっさのことに、私は反応できない。石のように固まった体で唯一自由に動かせる目だけが彼の動きを追っていた。
彼の手はそのまま私の頭に、いや、頭の上のとんがり帽子に伸びていく。あ、と思ったとき、帽子は私の頭を離れていた。
「――」
男の子はその帽子を自分の頭に乗せにっこりと笑うと、私に向かって何か一言口にした。しかし私の耳は何も聞き取ることができなかった。男の子の言葉を聞き漏らしてはいけないと思い、私は自分の両耳に手を当て、自分の鼓膜を修復する。
途端にクラス内の喧騒が甦った。しかしその喧騒はこれまでのものとは少し異質に聞こえた。
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