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ずきん、と胸の奥の奥を痛みが襲った。
わかってるんだ。瀬世はわかってるんだ、自分が犯した過ちを。そして、不安なんだ。浅海が自分を選んだのは本当の愛なのかって。
確かに強引であった。自分勝手であった。けれど――感じていたのは、純粋な愛だった。
「すまない……オレは、拒めなかったんじゃないんだよ」
浅海は瀬世の頬を両手で包んだ。そのまま続ける。
「最初こそ本当に嫌だったけど、オレは誰かに――お前に求められたのが嬉しかったんだ」
だから、そんな悲しいこと言わないでくれ。
そんな、今にも泣きそうな顔をしないでくれ。
「大丈夫だよ。大丈夫だよ、瀬世」
浅海は瀬世の高い頭を優しく撫でた。愛情のこもった優しく甘い手で。
「――浅海せんせっ、終わりましたよ」
振り返ると、佐和田が――その瞳は浅海が思わず「ひっ」と短い叫びを上げてしまいそうな恐ろしい光を帯びていた――首を傾げてにこりと笑っていた。
「佐和田……」
浅海はばっと瀬世から離れると必死に笑顔を取り繕った。
「あぁ、終わったのか。ありがとう」
「いいえー。浅海先生の頼みならなんでも聞きますよ」
佐和田はにこやかに話しながらも目は冷たく浅海と瀬世を映していた。
浅海は悪寒を感じながらもその場を納めるのに必死でそれどころではないが、瀬世にはそれがすぐにわかった。
佐和田は危険だ。絶対に浅海と二人で接触させてはならない。その瞬間、綺麗な純白のような浅海が穢れた漆黒にじわじわと染められてしまう。佐和田は絶対に――浅海を犯す。
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