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2.花屋と絵描き
休日の公園は人が多くてしかたがない。
バイトがない日は駅前の大きな公園のベンチに腰掛けて建物や風景を描くのがおれの習慣だった。
子どもの頃から画家になるのが夢でひたすら絵だけを描いてきたが、気づけば今年で三十路の仲間入りである。
一緒に画家を目指していた大学の友人達も今じゃ立派に就職して働いているし、おれもそろそろ引き際なのかもしれない。
「こんにちは。今日は何を描いてるんですか。」
白いワンピースがよく似合うこの人は篠原さんといって、最近話すようになった公園仲間だ。
花屋で働く彼女はお店が休みの日に近くのこの公園を散歩していて、一日中スケッチブックを広げているおれを珍しく思い、声をかけてくれた。
これといって面白くもないおれの絵が気になるなんて物好きな女性だとは思うが、おれにとっては絵の感想をもらえるのは貴重なので、声をかけてもらえたのはありがたいことだ。
「別にいつもと変わらない風景なんで面白くないですよ。」
「そんなことないですよ。細かいところまでちゃんと描いてあるし、葉っぱとか枝とかが風で動いてるような気がするし、見てて楽しいんです、原田さんの絵。」
そう言って楽しそうに笑う彼女を見て、おれは少し照れくさい気持ちになる。
「そう言ってもらえると嬉しいです。でももう絵を描くのやめようと思うんです。もう若くないし、これだけ続けても芽が出ないんだったらたぶんもうチャンスはないんだと思います。」
「え、もう描かないんですか?」
残念そうな顔を見て少し心が痛む。
「はい。趣味で描くのもいいと思うんですけど、たぶん未練が残っちゃうんで、おれはきっぱりやめたほうがいいと思うんです。篠原さんは短い間でしたけど毎回おれの絵を楽しんでくれていて、おかげでこの公園で絵を描くのはすごく楽しかったです。ありがとうございました。」
彼女はしばらく黙りこんで、なにか考えているようだった。
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