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3.傷だらけの青春
実家が空手道場で小さい頃から稽古に励む男たちを見て育ったせいか、私は弱っちくて女々しい男が苦手だった。
別に関わらなければ支障はないのだが、隣の席の佐野匠海の軟弱さはスルーできなかった。
メガネだし背は低いし前髪長いし、おまけにしょっちゅう絆創膏とか湿布を貼っているから、外で不良に絡まれているんじゃないかと気になってしょうがない。
今日も頬が少し腫れているみたいだし、口元にもかさぶたができている。
「ねえ、あんまりひどいようだったら先生や親に相談しなよ。なんならうちの空手道場で鍛えてやるし。」
「え、あぁ、心配してくれてありがとう。でももう慣れてるし、それにせっかくだけど放課後は忙しいんだ。」
塾にでも通っているのだろうか。つくづく外見を裏切らないやつだ。
「そっか、まあ今度絡まれてるの見たら私が助けてやるよ。空手やってるから頼りになるぜ。」
チャイムが鳴り社会科の先生が教室に入ってきた。
運動は好きだけど勉強は苦手なんだよな。はやく道場に行って稽古したいよ。
帰りのホームルームが終わるとすぐに教室を飛び出した。
今日は一日中机に座りっぱなしだったし、家まで走って帰るか。
横断歩道を軽快に渡った先の曲がり角で急に人影が現れた。
「やばっ!」
慌てて進路を変えて道に転がったが、相手の肩に少し当たってしまった。足を変にひねったせいかズキズキと鈍い痛みがする。
「すみません、怪我はなかったですか。」
ぶつかったのは派手なシャツを着たガラの悪そうな四人組だった。
「お嬢ちゃん、そこの高校の生徒だろう。立派なとこ通ってんだからさ、道路を走ったら危ないってことくらいわかるでしょう。」
正論だが、後ろでにやにやと感じの悪い笑みを浮かべているのを見ると素直に反省できない。
「本当にすみませんでした。怪我してなくてよかったです。それでは失礼します。」
足早に立ち去ろうとしたが腕を掴まれた。
「謝って済むわけないじゃん。とりあえずそこに車停めてるから、中で慰謝料の話しよっか。」
「ちょっと、離せよ!」
強引に振りほどこうとした肘が相手の顎に入った。
「てめえ、なにすんだよ。」
男たちの雰囲気が明らかに物騒変わった。ただでさえ4対1なのに、さっきひねった足のせいで踏ん張れそうにない。これは本当にやばいかも...
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