1 見知らぬ犬、もしくは館山すみれの懺悔

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 帰ってからのことは何も考えていない。自分がどこに行くかもわからない。また誰かを好きになるのだろうか。それとも、もう誰のことも好きにならないのだろうか。結婚して、子供を産むことがあるのだろうか。何一つわからなかった。  ああ、悲しい。なんて孤独なんだろう。友人も、愛する人も、全てを失った。月を見て彼のことを思った夜も、花を見て彼女たちと笑った日々も、全て置いてここを去る。  東京、というアナウンスが聞こえた。トランクを持って立ち上がる。少しだけふらついて、支え切ることができず倒してしまう。がたん、と大きな音がして、持ち直そうと思い振り返ると、その大きな塊がまるで見たこともない犬のようにみすぼらし見えて、ああ、どこまで私は孤独なんだろうかと涙が出そうになった。  私が愛した恋は、いつのまにか見知らぬ犬になり果てていた。
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