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私がこの街にやってきたのは、十八の時だった。高校を卒業して、大学に進学して、その時に決めたのが今の家だった。いや、今、というのは間違いだ。もうあそこは私の家ではない。空っぽになったあの空間には、私の面影はもう何も残っていないのだろう。せめて残っているとしたら毎日つけている香水の残り香が、壁の奥に染み込んでいるくらいだろう。次に住む人には申し訳ない。でもせめて、これくらいは残させて欲しかった。そうでもないと私がここにいたというものは何も残らない。今からちょうど二年前、あの人と出会ってから今の香水に変えた。それまではもっとさっぱりとして男らしい香りだったけれど、あの日からもうずっと私はいかにも女といったような香りを身にまとっている。それは今でも同じだ。もう終わったと思っているのに、この香りはもう自分の一部のように思えてしまって、変えるに変えられなかったのだ。いつの間に私はこんなにも女々しくな
ってしまったのだろう。性格まで、香水と同じで女々しくなってしまった。
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