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私も同じようなものだった。大学卒業後に就職した会社は、いわゆるブラックと呼ばれる会社だった。始業の一時間前には出勤して、休憩は日によって与えられず、終電まで働いた。仕事を終わらせられない自分が悪いのだと言われて、疲労と眠気でよく働かない頭では「それもそうか」としか思うことができなかった。休日だって出勤したし、家にいる間は寝ているかお風呂に入っているかのどちらかしかしていない。一日のほとんどを会社で過ごし、そうやって私の時間は過ぎていった。
東京行きの電車がホームに滑り込んでくる。さすがにこの時間だから人はほとんどいない。重たいトランクを抱えて乗り込むと、もう秋だというのにエアコンがついていて、少しだけ肌寒い。ストールも何も持っていなかったから、仕方なく剥き身の腕をさすって心ばかりの暖をとる。ここから東京まで、おおよそ三十分。かつての職場までは一時間。そう考えると乗り換えもしなくていいから近いものだ。
「さよなら、きっともう二度と来ることはないのだろうけれど」
普段と同じように、何の感慨もなく電車は滑り出す。次の駅に向けて、無感情に走り出す。私にとっては永遠の別れであって、せめてもう少しだけ感傷に浸っていたかったのに。しかしこの広い広い世界においては、私のこの別れなんていうのはちっぽけなものなのだろう。秋のある一日の、なんてことない、ありふれた平日として流れていくのだろう。
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