1 見知らぬ犬、もしくは館山すみれの懺悔

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 ある日私は、恋をした。  とてもあっさりと、とても簡単に私は人を好きになった。  彼は私の教育係で、新入社員として右も左も分からない私に親切丁寧な指導をしてくれた。困っていれば優しく教えてくれたし、悩んでいたら話を聞いてくれた。仕事があまりにも苦しくて泣いていたら自動販売機で暖かいココアを買ってくれた。ずるずる泣きながら缶を握りしめる私を、急かすこともなくずっと見守ってくれていた彼を、私は好きだと思った。  一度好きだと思ったらもう駄目で、それから私の感情は止められなかった。教育係ということでデスクは隣だったし、同じ仕事を一緒にしていた。だから話す機会は多かったし、一日の中でパソコンのディスプレイ以外に最も多く見たのは彼の横顔だったろう。彼のことを好きだと思ってから少しずつ仕事が楽しくなっていった。朝早く出勤しなくてはいけなくても、デスクに行けば隣に彼がいる。夜遅くまで仕事をしなくては行けなくても、同じように彼も残っている。職場にいればいつも隣には彼がいるのだ。     
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