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誰もいない、待ってくれる人のいない自宅にいるよりずっとそっちの方が幸せだった。それに何か一つ出来るようになると彼が褒めてくれる。それが嬉しくて仕方なくて、私は仕事にのめり込むようになった。
彼への恋心だけで私は日々を生きていた。結局のところ、仕事のために生きる男と何も変わらないのだ。恋をすることが人生の本分ではない。働くことが人生の本分ではない。そんなこと分かっていたのに、私はずるずると落ちていった。
恋は一種の麻薬だ。一度触れるともう逃げられない。もっと激しいものを、もっと熱いものを欲しくなってしまう。あれほど恐ろしいものはこの世にないだろう。死ぬほどの恋をしてみよう、なんて、大学生の頃は全く共感できなかったのに。今になれば分からなくもない。叶わないのであれば死んでしまいたい。実らないなら殺してしまいたい。この世で共にいられないのなら、どうかせめてあの世では。そんなことを恐ろしくも思ってしまう。
結局のところ私は「恋」というものに恋をしていたのだ。決して叶わない恋だったからこそ私はのめり込んだ。これがもし世間一般で言われるような「普通」の恋であれば、ここまでならなかっただろう。
彼の左手薬指に、プラチナの指輪がはめられていなければ。
私はきっと、ここまで狂うことはなかっただろう。
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