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去年の夏。もう風呂でうんちはしなくなった息子と風呂に入った。男同士の話をした。弟が生まれること。お前はお兄ちゃんになるんだということ。お兄ちゃんは何かと大変だろうということ。だけれど弟をいじめたりしちゃいけないということ。もしどうしても辛いことがあったら、お父さんに言えば、絶対にお前の味方になってやるってこと。息子は少し涙を浮かべてはいたが、決して泣かなかった。その涙というのも、突然かしこまって話し出した、いつもと違う父親を怖がっていたのかもしれないけれど。というか、泣きそうなのはこっちの方で、どうにか堪えていた涙が、窓を震わす轟音と磨りガラスに乱反射する原色によって崩壊した。花火だった。息子は窓を開けて、花火に夢中だった。お陰で泣いているのもばれず、親父の威厳も保たれた。窓よ、ありがとう。
失ってから気づく、なんて言葉は陳腐だと思っていたが、あの窓を思うと、その言葉がぴたりだった。しかし、もう窓は帰ってこない。レトリックとかじゃなく、間取り的に。家族会議を重ねること4回。やっぱり窓が必要だ、との結論に至る。あの窓は私たち家族に思い出をくれた。だから思い出をくれる窓をまた作ればいいのだ。
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