【本編】

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決議された週の日曜日。ホームセンターで窓枠を買ってきた。なるべくかつての窓と同じ見た目のやつ。工作が得意な父と一緒に風呂場の壁にガラスのない窓枠だけを取り付けた。枠に囲まれた空白には風呂用のホワイトボードを取り付ける。それから水で消せるパラフィンの固形マーカー。もちろん色はたくさん用意した。あとはマグネットにラミネート加工ができるキットも購入した。準備は万端である。 その日の夜。妻が「お父さんとお風呂入りなさい!」と言う。さあ、決戦だ。きっと息子はまた今日も「いやだー」とか言いながら、縞模様のクッションを投げ、部屋を逃げまどうだろう。それを「今日の風呂は特別だぜ」とか、意味深に告げて、興味を持ったところを風呂場に連行。こう算段を立てていたのだが、そうはならなかった。息子はその言葉を聞くと一目散に風呂へ駆けていく。いつも休みの日は昼まで寝ている父親が珍しく風呂場で何かをしていたことで、『風呂で何か尋常ならざることが起きている』とすでに気づいていたらしい。そりゃあれだけザ・日曜大工の音を立てて、じいさんと「あーでもない、こーでもない」と話す声が聞こえていれば、幼稚園年長にもなった我が息子なら気づく。 風呂に駆けて行った息子を追う。道しるべみたいに廊下に点々と脱ぎ散らかされた洋服を拾いながら、風呂場についた。フルチンの息子が浴室を覗く。黙ったままの小さな背中を見れば、満足しているのはわかった。
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