第一章

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 思いを断ち切るために怜司との思い出の品や電話番号など、怜司を思い出させるものは全て捨て、長瀬は傷心のまま街を去った。元々、長瀬はこの街の出身ではない。たまたまこの街の大学に合格して一人暮らしを始めたのだ。用がない限り、再び訪れることもない。  東京に出てからは仕事に一生懸命打ち込むことで、いつしか怜司の事は過去の思い出となっていった。また以前のようにゲイバーに顔を出し男を物色したりしてみたが、自堕落な自分に嫌気がさすばかりで再びのめりこむことはなかった。そんな折に触れ、長瀬は腹を立て衝動的に怜司との関係を絶ってしまったことを思い出しては後悔した。当時の長瀬はまだ青臭く、必死に追いすがることなどみっともない事だと考えていたのだ。  縒りを戻したいのか、今でも愛しているのかと問われれば、答えは否だ。それどころか、当時も本当に愛していたのかどうかすら今となっては曖昧としてしまっている。 ――ただ、もう一度会いたい。会ってあの頃の自分の短慮を謝りたい。そして、できるなら……。  長瀬は一つ溜め息をついてからカーテンを引いた。部屋の中に視線を戻せば、ガーメントバッグとキャリーケースがぽつんと置かれている。夕方、新幹線を下りたその足でチェックインを済ませ、すぐさま怜司のアパートへ向かったため、荷物は部屋に放り出したままだったのだ。     
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