第二章

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 中川にそう言われ、歩を進めながらそちらに目をやると、四つのデスクが向かい合わせになっていて、男性三人と女性一人がそれぞれ仕事をしている。その奥、窓を背にするように一回り大きな管理者用のデスクが用意されていた。デスクの上にはパソコンのモニタと書類用のトレーがあるだけで、他に私物のようなものは何も見当たらない。どうやらそれが長瀬の席になるらしい。本社では平の社員とデスクを並べていたので、この待遇はちょっとした昇格のようで少し気分がいい。  中川が「ちょっといいかな」と声を掛けると全員が振り返り、椅子から慌しく腰を上げた。 「ひゃっ」と変な声があがったのでそちらに視線を向けて驚いた。なんと、昨晩怜司の部屋の玄関先で一悶着起こした男がまたしても怯える小動物のように目を丸くして立っているではないか。こんな偶然が果たしてあるものだろうか。長瀬も思わず声を上げかけたがすんでのところで呑み込んだ。男は周囲に一斉に怪訝な目を向けられた事に気づき「す、すみません」と俯き、小さな身体をさらに縮こまらせている。  場の雰囲気を改めるように、中川が一つ咳払いをした。 「紹介します。こちら、本日付で本社から派遣された長瀬くん。彼にこのプロジェクトの指揮をとってもらいますので、皆さん一丸となってよい結果を残してください」 「長瀬です。十日間という短い期間ではありますが力を合わせてこのプロジェクトを成功に導きましょう」 「じゃ、みんなも自己紹介してくれるかな」  中川にそう促され、四人の中で一番年長、長瀬より少し年上と思われる男が一歩前に進み出た。     
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