第二章

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「それでしたら、僕は気にしてませんから。別に誰を好きになるかなんて、人それぞれだし。ましてや長瀬係長のプライベートを詮索したり、他人に触れ回ったりとかもしませんから」  その返事から、やはり亀井は長瀬が危惧した通りの疑いを既に持っているのだということがわかった。返答に窮した長瀬の一瞬の虚を衝いて、亀井はするりと長瀬の腕から抜け出した。 「あ、給湯室はエレベーターホールの隣です。喫煙所は突き当たりの自販機コーナーにあります。じゃあ、僕はこれで」  ふいに振り返りそう言うと、亀井は非常階段の扉を重そうに開け、そそくさと逃げるように出て行った。長瀬の目の前でガシャンと大きな音を立てて扉が閉まる。なんだか昨晩と同じような状況だ。 「なんなんだ、あいつは……」  長瀬は昨晩同様、少し乱れた前髪を指で梳き上げ、ひとりごちた。  亀井はどうやら野暮ったい見た目に反して、なかなか気の回る男のようだ。長瀬に対して最初から怯えたり避けようとしている素振りがあったことはやはり引っかかるが、ただ、ゲイに対して激しい嫌悪感を抱いているという事はなさそうだ。まだ他にいろいろ確かめたい事はあるものの、これ以上突っついて亀井の心情を害するより、誰にも口外しないと言った亀井の言葉を信じて、今はそっとしておくほうが得策だろう。     
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