第三章

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 安藤のおおらかそうな顔つきと相手を持ち上げるような話し方、それにぽっちゃりとした体つきからは、技術系の人間にありがちな神経質そうな一面が全く見られず、むしろ営業畑の人間なのではないかとさえ思えた。本当にITの知識を持っているのか、なんとなく不安だったが、やはりそれなりのスキルは持っているらしい。安心してその場を離れようとする長瀬を安藤はさらに引き止めた。 「あ、それと別口なんですけど。帰り、これ」  目を糸のように細めニカっと笑い、くいっとグラスを傾けるジェスチャーをする。 「長瀬係長の歓迎会も兼ねて、新しく発足したプロジェクトのメンバーの親睦を深めるために一席設けましたので、ぜひ」 「それはありがたいです。ぜひ参加させてもらいますよ」  にこりと微笑み快諾したが、心の中では舌打ちをしていた。本当は、今日も怜司の消息を尋ねるために、昔通っていたゲイバーに顔をだすつもりでいたのだ。その予定が潰されてしまった。  しかし、仕事を円滑に進めるために仲間とのコミュニケーションが重要だ、ということは充分承知している。長瀬以外の四人も、それぞれ違う部署からこのプロジェクトのために召集されたメンバーなので、まだ少しお互いにぎこちなさがあるのだ。それらを手っ取り早く解消するために、一緒に酒でも飲んで腹を割って話そう、と考えるのは当然の成り行きだ。  それを、さすがに断るわけにはいかないだろう。怜司の事も気にかかるが、今の長瀬にとってはこのプロジェクトの成功こそが一番の優先事項だ。しかたのない事と諦めるしかなかった。 「ま、とりあえずは、かんぱーい」     
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