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それにしても、青褪めたり、怒ったり、必死になったり、亀井は短時間の間にくるくると表情を変える。見ていて飽きないな、と長瀬は苦笑を漏らした。
コーヒー豆を手早くコーヒーメーカーにセットすると、コーヒーが抽出されるまでの時間に亀井はてきぱきと食パンをオーブントースターに入れフライパンに玉子を落とした。そして、あっという間にダイニングの小さなテーブルの上に皿が並んでいく。
「ありあわせのもので申し訳ないんですけど」
そう言われて席に着くと、コーヒーにトースト、目玉焼きにサラダときちんとした朝食が用意されていた。
「すごいな。お前、普段から一人でもこんなちゃんとした朝飯作ってるのか?」
感心する長瀬に、亀井は少し顔を赤らめた。
「朝はちゃんと食べないと元気が出ないって母に言われてるので、それを守ってるだけです」
「お母さんね」
長瀬がくすりと笑うと、途端にむっとしたように口を尖らせたのでそれ以上は何も言わなかった。
「じゃあ、遠慮なく」
コーヒーに口をつける。すでに砂糖が入っているらしく、かなり甘い。ちらりと亀井に視線を走らせるが、平然とした顔でカップにふうふうと息を吹きかけていて特に含みがあるというわけでもなさそうだ。
トーストにもたっぷりのハチミツがかけられていて、長瀬は思わずまじまじとそのとろりとした黄金色の表面をみつめた。
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