第四章

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 ターミナル駅の明るいコンコースを突っ切り、駅の反対側に出る。華やかなデパートや商業施設が立ち並ぶ表通りと違い、こちら側は少しうらぶれたような街並みだ。記憶を頼りに居酒屋や大衆食堂が連なる通りに入り、そこからさらに細い路地を進む。五年の間にすっかり周囲の様子は変わっていた。長瀬が怜司をくどき落とそうと足しげく通っていたゲイバー「プラチナ」は雑居ビルの二階に入っていたが、危惧していたとおりその雑居ビルは跡形もなくなって、よく見かけるコインパーキングに姿を変えていた。流行り廃りの激しい業界でもあるし、しかたのないことだろう。長瀬は諦めて、来た道を引き返した。この街にはあと数軒ゲイバーがある。とりあえず、怜司がたまに顔をだしていた別の店を回ってみることにした。  この街で一番の老舗は、当時のままで残っていた。かららんとドアベルを鳴らして店内に入る。 「いらっしゃいませ」  若いバーテンダーがカウンターの奥から声を掛けてきた。自分より年下と思われるその男に怜司のことを尋ねてみてもまず知っているとは思えなかった。落胆しつつもカウンターの空いている席に着くと、声を掛けられた。 「カズマじゃねぇか?」  振り向くと見覚えのある顔。長瀬ほどではないが、背も高くそれなりに見栄えのする男。朧ろげに記憶がよみがえった。プラチナの常連でよく顔を合わせていたし、何度か怜司を巡って小競り合いをしたので憶えている。たしか名前は。 「アキラ、か?」  男は口角の端を少し上げ「久しぶりだな」とにやりと笑った。どうやら記憶は正しかったようだ。長瀬は挨拶もそこそこに、怜司の現在の状況や連絡先などを尋ねた。 「カズマと別れたって聞いた時は正直『チャンス』とか思ったんだけどさ、怜司その頃から仕事忙しくなって顔見ないうちに『プラチナ』も潰れたりでさ。結局、どっかに引っ越して芝居続けるって話は聞いたけどその後どうなったかはわかんねぇな」 「そうか……」     
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