第四章

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 長瀬はがっくりと肩を落とした。何故だか理由もなく、怜司は今もこの街に住んでいる、などと勝手に心のどこかで思い込んでいたのだ。自分の子供っぽい思い込みに呆れてしまう。 「怜司にいつもペットみたいにくっついてたヤツならたまに顔見るから聞いておいてやろうか? そいつなら何か知ってるかもしれないし」  アキラの言葉に、長瀬は首を傾げた。 「怜司のペット……?」  当時の記憶を辿ってみると、確かに、地味で小柄な男が怜司のまわりをうろちょろしていたことを朧げに思い出した。だが、それ以上は何も浮かんでこない。怜司を落とすことに夢中で周囲の事など全く眼中に入っていなかったのだろう。  さらに詳しいことを聞こうと身を乗り出しかけた時、ドアベルが軽快な音を立て、新しい客の来訪を告げた。とたんに周囲がどよめきだす。華やかな雰囲気の中にもどこか子供っぽさを残す美しい顔立ちの男が入ってきたのだ。 「お、ミツヒコ」  アキラの呟きには、今までの声にない浮き足立った嬉しさが滲み出ていた。すぐに席を立つと、「じゃ、また何かわかったら連絡するわ」と長瀬におざなりな挨拶を残し、いそいそとミツヒコと呼ばれた男のほうへと向かっていく。     
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