第五章

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 ただ、長瀬がこうして甘い物を食べるのは一人でいる時だけだ。甘い物が好きだなどという事は周囲には話していない。知り合いには甘い物を食べて相好を崩す姿など見せられるわけがなかった。安藤たちが話していたとおり、クールでワイルドな大人の男のイメージが台無しになってしまう。  会社での仕事の進捗はいたって順調だった。特に大きなトラブルもなく滞りなく進んでいる。この支店でもデジタルサイネージは今後成長していく分野として期待されている。優秀な人材をプロジェクトに選出してくれているのだろう。  ただ――。  忙しく仕事をこなしながらも、長瀬は亀井をついちらちらと目で追ってしまう自分に気がついた。亀井が仕事にまじめに取り組んでいるというのは様子を見ていればわかる。だが、亀井の態度はあいかわらず長瀬にだけは冷たく、ニベもない。顔には出さないものの、苛立ちは募っていった。長瀬との意思の疎通がうまくいかないせいか、他の人間に比べて少し仕事の仕上がりが遅い気もする。要領を得ないまま我流で仕事を進めれば当然影響も出てくるだろう。  これは先日来懸念していたとおり、きちんと亀井と話し合いをもつ必要がありそうだ。     
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