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長瀬は特にスポーツに励んでいたわけでもないのに上背があり体格もいいし、容姿はそれなりに整っていた。加えて、人を飽きさせない話術も心得ていて、性格も多少強引さはあるものの悪くはない。一度コイツと決めた獲物は、確実に落とす自信は持っていた。そうして電話番号を聞き出し、会う約束をとりつけた。怜司は大学に通いながら劇団にも所属していて、日々演劇やダンスの練習に打ち込んでいた。思うように時間がとれない怜司を、長瀬は攻め続け、何度か会ううちにようやく恋人とというポジションを手に入れたのだ。念願かなって手中に収めた時には、得意になってライバルたちに見せつけたものだ。
それからはお互いのアパートを行き来しながら関係を深め合い、夢のような蜜月が続く。
やがて、お互い大学を卒業する季節が近づいた。卒業してもバイトを続けながら劇団での活動を続けるという怜司に、すでに東京での就職内定を得ていた長瀬は「一緒に東京に出ないか?」と持ちかけた。忙しい怜司のことだ、このまま離れてしまえば会える時間は極端に減る。今でさえ会える時間が少ない事を不満に思っているのに、とても堪えられるわけがない。その上、長瀬が去り一人になった怜司を周りが放ってはおかないだろう。遠距離恋愛がうまく続くとは到底思えなかった。
「なんだったら俺の部屋に一緒に住めばいいし。好きな演劇だってこんな田舎でくすぶっているより東京に行けばオーディションだとか劇団だとか、いくらでもチャンスが転がってるだろ」
長瀬は当然、怜司は喜んでついてきてくれるものだと思っていた。なのに、怜司はふわりと物悲しい笑顔を浮かべ「少し考えさせてほしい」と言ったのだ。
「何を考える必要があるんだ。俺とずっと一緒にいたくないのか? 離れ離れになっても平気なのか?」
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