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第四章
「おい、亀井。そろそろ起きろ」
「ん、んー。今何時?」
「六時十五分だ」
「んー……、もう少し……って、えぇぇぇっ!?」
がばっと布団を跳ね上げて起き上がった亀井は、がさがさとベッドサイドのテーブルの上を引っ掻き回しはじめた。デジタルの目覚まし時計やテレビのリモコン、文庫本がごろごろと床に落とされていく。
「眼鏡ならここだ」
見かねた長瀬が黒縁眼鏡を差し出してやると、奪い取りすぐに鼻の上に掛け大きな目をぱちぱちと瞬いた。
「な、なんで長瀬係長がここに……っ!」
「お前が帰り際に酔っ払ってぶっ倒れたから、わざわざ連れて帰ってやったんだろうが」
結局、昨晩は仮眠のつもりが熟睡してしまっていた。背中や腰がギシギシ痛むので起きてみたら空が白み始めていた。堅いフローリングの床にずっと寝転がっていたおかげで一番気に入っているスーツがしわくちゃだ。そのまま部屋を出ることも考えたが、やはり一言声をかけておいたほうがよいだろうと思い直した。
「えと、それは、ありがとうございました……」
やっと昨日のことを思い出したのか、亀井は急にしゅんとして肩をすぼめ項垂れた。
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