第五章

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第五章

 朝。いつものように完璧に身支度を整えた長瀬はホテルを後にした。朝食をホテルのカフェラウンジでとるのは止めにした。代わりに通勤の時にめぼしをつけておいた喫茶店に向かう。外資系の洒落たセルフサービスの店ではない。昔から営業を続けている少し古ぼけた外観のこじんまりとした店だ。  モーニングセットを頼むとコーヒーに、トーストとゆで卵が出てきた。さらに、苺ジャムと小倉あんが入ったジャムポットが一緒にだされるのはこの街ならではの光景だ。  長瀬は半分にカットされたトーストに半分はジャムを塗り半分は小倉あんをたっぷりと乗せた。コーヒーにはスティックシュガーを三本。  小倉あんの乗ったトーストを一口かじる。 ――うまい。  久しぶりの味に思わず頬が緩む。実は、長瀬は甘い物に目がないのだ。特にこの小倉トースト。バターの塩気と香りに小倉あんが絶妙なハーモニーを醸し出す。大学に入学したての頃初めて食べて、すっかり虜になってしまった味だ。     
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