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曜日感覚が完全になくなっていた僕は、外に出て初めて今日がクリスマスであることを知った。街はまぶしいほどの電飾で彩られ、たくさんの人が行き交っていた。家族も仕事を失った僕は、賑やかな街中を、ただ一人で歩いていた。こんなはずじゃなかった。成人した今でも、幸せそうな家族の姿を見ると、胸の奥が痛くなる。もし、あの時二人のケンカを止めていたら。弟と一緒にいたいと強く言っていれば。もし、あの頃に戻れたら。サンタが来る奇跡が起きた日。そうだ、あの時のサンタに会いに行こう。幸せなあの頃に、戻れたら。本物のサンタを探しに行こう。
景色は街中から、住宅街へと変わっていった。辺りはいつの間にか霧で覆われていて、どこを進んでいるのか分からなくなった。もちろん行く当てもない。それでも、ただ歩いた。
「いやぁ、困ったね。急に雪が降って来て、仕事がはかどらないよ」
目の前に老人がいた。いつからいたのだろう。
「ちょっと君、ここに急いで届けなきゃいけないものがある。でも僕は別の仕事があるんだ。代わりにあの家に届けてくれないか」
老人は赤い服と赤い帽子とリボンがかかった包みを二つ渡し、灯りのついた一軒の家を指差した。僕はその人を本物のサンタだと思った。服の上から渡された赤い服を羽織る。そうして指定された家に向かう。灯りがだんだん大きくなった。肩に雪が積もり、手足が冷えていく。反対に体の内側は熱を持ち、家が近づいてくるのに比例して息が弾み、鼓動が早くなるのを感じた。もう、ドアは目の前だ。ドアの色も、表札も見覚えのあるものだった。
ドアを開けると目を丸くした二人の幼い兄弟と夫婦がいた。よく知っている顔がそこにあった。昔の僕の家族だった。そうか、あの日のサンタは。
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