あの頃の家

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あの頃の家

僕は本物のサンタに会ったことがある。  あれは十年前のクリスマス。家族四人で囲んだ食卓には、母親が腕によりをかけて作った料理と大きなケーキが並んでいた。笑い声が溢れる食卓で、両親はただ幸せそうに兄弟を見守っていた。  「お前、いつまでそれ持ってんだよ」 弟は朝、両親からもらったプレゼントのぬいぐるみを大事そうに抱えていた。 「だって、サンタさんからもらったんだもん」 弟は枕元にあったそれをサンタさんからだと思い込んでいたけど、小学校高学年だった僕は、両親がサンタのふりをしているってことはとっくに知っていた。 「汚れるから、食事中は置いときなさい」 母親は注意するような口調で言うが、どこか嬉しそうだった。普段から無口な父親は自分があげたプレゼントに満足する子供を誇らしげに見ていた。僕はまた、弟をからかうような言葉を口にしようとしたその時。 突然ドアが開いた。じっとドアを見つめる兄弟の視線の先にサンタがいた。赤い服と赤い帽子。白いひげはなくて、おじいさんでもなかったけど、プレゼントを二つ持っていた。サンタだったはずの両親が驚いていたから、あれは本物のサンタだったのだと思う。     
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