1 プールのあとの図書室

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1 プールのあとの図書室

 プールのあとの図書室で、ちゃーちゃん、と呼ぶ。  窓際の低い本棚の上に座ったちゃーちゃんは、端が茶色くなった本をめくりながら「んー?」とこたえる。ひなたぼっこ中の動物みたいな目は、哲学しているのか、ぼーっとしているのか、判別不能だ。わたしはとろける上半身を机に預けたまま、瞳だけちろっと動かして、その光景を眺めている。  窓際で読書する少年。うぅむ。外国の詩のようだなぁ。  そのとき、窓から風が入ってきて、揺れたカーテンがちゃーちゃんの鼻をくすぐった。 「へぶしっ」  妙な音のくしゃみで、詩のような光景が霧散する。 「はは」  短くわらうと、ちゃーちゃんはようやくこっちを向き、唐突にぎゅっと目をつむって鼻にしわを寄せた。何かを一生懸命考えるときの仕草だ。 「なーに?」  わらうのをやめて尋ねる。 「愛を感じる」  ぱっちりと目を開けて、ちゃーちゃんはそう言った。ちゃんと目を開けると、二重になる。そのときのちゃーちゃんは、文句なく美少年だ。 「そりゃあ、愛してますもの」  わたしも真似して、ぱっちりと目をひらく。 「それはうれしいなぁ」 「うれしかろう」 「うれしいなぁ」 「こらっ!」と声が飛んできて、びくっとする。「本棚の上にすわらないように」と司書さんに注意されたのであった。
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