1 プールのあとの図書室

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「ごめんなさい」と頭をさげて、降りる。まったく反省していないようだけど、ごめんなさいの言葉にもまた、嘘のない様子で。 「ちゃらんぽらんだなぁ、きみは」  向かいに座るちゃーちゃんを見ながら、くすくすと呟く。 「そうだ。さいきんわかったのだけどね、ぼく、」  塩素のにおい残る前髪を近づけて、ひそっと言った。 「なーに?」 「ぼくは、生きるということに対してあまりに真剣で、ちゃらんぽらんになっちゃったんだ」  わたしは何も言うことができなかった。ちゃーちゃんの言葉が、よくわからなかったからだ。それでもそれは、とても大事な言葉であるような気がして、おざなりに応えることもまた、できなかった。 「……ちゃーちゃん」 「ん?」 「こんなにちかづいていると、また、付き合ってるって誤解されそう」 「おお、『地球の約束』だね」 「地球の約束」とは、ちゃーちゃんの口癖。多くの人が自明と信じて疑わないものを示すときに使うのだが、そんな言い方をするのには理由がある。それは、わたしたちが地球の外からやってきたからだ。もちろん、異星人だと言いたいわけではない。わたしたちには、母親のお腹に入る前の記憶があったのだ。
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