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唐突に声が聞こえて、冬香は立ち止まった。
キョロキョロと辺りを見回す。誰かいるようには思えない。
「ここだよ、こ・こ!」
ハッと上を見ると、桜の木の上に「何か」がいた。
「え?」
寒波の中、開花宣言が出てこの地域も蕾が膨らみつつあった。その赤がぽつんぽつんと浮かぶ枝に桜色の少女が乗っている。
「ふー…やーーっと見てくれたよ」
溜息をつく少女の見た目は、正直に言うと摩訶不思議そのものだった。
所々白銀が入り交じるピンクの長い髪をざっくり三つ編みにしていて、手が隠れるほど袖がぶかぶかのジャージを着ている。下は黒の短過ぎるプリーツスカートで、どうにもちぐはぐだ。
そして一番の違和感は脚だ。スカートから覗く太腿は普通だが、下にいくにつれて薄くなり膝辺りは残像の様に実体がない。文字通り手脚のない少女だった。
「…あなたは、幽霊か何か?」
「そうだとも言うし、そうでないとも言える」
「???」
「御託とか建前とかはいいんだよ」
そう言って樹から飛び降りる。冬香は反射的に駆け寄ったが少女は音もなく降りてきた(脚がないので当然といえば当然だが)。
「それにしてもおねーさん、案外驚かないんだね?落ち着いてるし」
「別に信用してる訳ではないよ、あなた胡散臭いし。深く知りもせずにあれこれ肯定否定するのが嫌いなだけ」
「…教室での態度の割に肝座ってんだ」
「え?」
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