りら姉ちゃんの来た夏

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 たん、たん、たん。  りら姉ちゃんが階段を降りる音が聞こえる。  わたしはこくんと生つばを飲みこんだ。  たん、たん、たん。  なんとなく、なんとなくだけど、りら姉ちゃんはお父さんの部屋に行ったんじゃないかという気がしてならなかった。  いつか映画で見た、大人のシーン。  お父さんの部屋で見てしまった、えっちな雑誌。  大人の男女はこういうことをするのです、とまじめな顔で先生が教えてくれた、あの気まずい授業。  いろんな情報が頭の中でぶつかりあって、わたしは心臓がばくばくしていた。  どうか、りら姉ちゃんが台所にお茶を飲みに行っただけでありますように。  すぐに戻ってきてくれますように。  どうか、どうか。  だけど、りら姉ちゃんが戻ってきたのはそれから1時間以上もたった頃だった。  息をころしていると、りら姉ちゃんはまた黙ってわたしを見下ろして、それから静かにベッドにもぐりこんだ。
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