第1章

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電話のベルで起こされた。 おれは左右に頭を大きく降った。二日酔いの朝は決まってそうする。 『おはようございます。これから伺います』 友人でありサムからのモーニングコーヒーだ。 『二日酔いなんだ』 おれはこたえた。口の中が、皮の手袋を押し込んだみたいだった。右手で頭から紙をかきあげて、また頭を振った。 『シャワーでも浴びると良いですよ。効きますよ。とにかく行きます』 受話器を置く音が、頭に響いた。 『少し飲みすぎたなぁ』 アメリカンポルノの実態を探ろうと、ロスへ来てから10日が過ぎた。最初の2~3日は割合い順調な滑り出しで事が運んだが、ここ数日と言うもの確かな手応えを感ずる情報収集が出来ていない。昨日、一昨日とVCA、CCCとビデオ会社へ足を運んだが、中へ入る事が出来ない所か、車を止める事すら断られた。 特にCCCの警備ときたら日本では考えられない程の凄さである。元警察官と言う黒人の男は、レスラーのような体つきで、ポリス仕様のマグナム45口径拳銃を腰に巻き、その仁王立ちの手にはショット・ガンを何時でも射てると言った格好で構えている。とてもじゃないがチップを弾む位では受付ない。渋々立ち去った訳である。 実際に、一人のライターが意気揚々と出掛けた位ではどうしようもない位厚い壁だ。日本を飛び立つ前の意気込みは何処へやら、すっかり気圧されてしまった訳で、昨日はテキーラを浴びて、冒頭の二日酔いになる始末である。
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