第1章

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キャルビスタ社は、と言うよりもアメリカの会社では、日本の様に分かりやすく社名を掲げた看板を出してる事はなく、それがあるのは精々レストランかマーケットぐらいなもので、ここがキャルビスタ社でございます、と言うような目印はまったくない。かろうじて玄関の真上に、番地の数字が大きく浮き彫りになっているだけだ。 時計を見ると、約束の四時を少し回っていた。場所を探しだすのに、割合手間がかかり、息つく暇もない格好でキャルビスタ社を訪れた。 玄関を入ったすぐ右手に、硝子張りで丁度映画館のチケット売り場のような受付があり、その中に茶色のスーツを上品に着こなす女性がいた。 おれは、サムの顔を一瞬伺い、軽く咳払いをして訊ねた。 『こんにちは。電話で四時に約束をした、日本から来た黒木ですけど。ええと、キャルビスタ社はここですよね』 彼女は笑顔でうなずくと、内線電話のダイヤルを簡単に押すと、 『四時に約束のミスター・クロキがお見えです。…はい、分かりました』 と、誰かに連絡を取った。 『只今、副社長が見えますので、少しお待ち下さい』 丁寧な英語で言うと、おれ達をロビーなソファーへ導いてくれた。 そこは、ロビーと言う よりも、落ち着いた談話室と言った感じで、アンティークな窓硝子から写し出す光は、焦げ茶色な内装を豪華に描き、その内側には葡萄酒色のカーテンが、房ひもでひき絞って優雅な空間を作り出している。 おれは煙草に火をつけると、革製のソファーに身を沈め、副社長を待った。
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