第1章

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一時間位たったろうか、サムは未だにやって来ない。そこで目を閉じたのがいけなかったのか、おれはたちまち眠ってしまって、また、電話のベルで起こされた。今度はフロントからで、 『サムと言う方がお目にかかりたい、とフロントへお見えですが、いかが致しましょう』 時計を見ると、すでに十一時を回っていた。 『前のレストランで、待たせて置いてくれないか。大急ぎでおりて行くから』 受話器を置くと、おれはベッドから飛び起きて、バス・ルームに駆け込んだ。冷たい水で顔を洗って、服を着ると部屋を飛び出した。 おれが滞在してるホテルは、海に囲まれた郊外にあるが、およそ観光とは縁遠い所で、これと言った名所もないが、うまい朝飯を食わせるシーフード・レストランがホテルの前にあり、割りと地元の人が集まる場所である。 レストランに入ると、昼時とあって店は活気が溢れていた。人越しにサムが座っているのを見つけた。連れが居る様だが、初めて見る顔だ。 『誰だろう』 おれはサムが着いている席へ、軽く手を上げて、来た事を知らせた。サムはおれに気がつくと、親指を天井に向けて腕を上下に振った。アメリカの若者がやる特有の挨拶だ。 『気分はどうですか』 『最悪だね』 おれはかぶりを振った。そして、サムの連れに視線を合わすと、付け加えて訪ねた。 『彼は?』 『ぼくの友人のお兄さんで、ゴードン・スミスさんと言います。黒木さんとは同業者なんですよ』 サムが黒木さんと、スミスに紹介すると、おれはやおら握手を求めた。 『はじめまして、黒木です』
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