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席へ着くと、まず目に入ったのは、ゴードンの顔だった。横縞のTシャツの上には、野球帽をかぶった厳つい顔があって、パイプをくわえたその顔が、漫画のポパイにおかしいくらいそっくりだった。
『彼、黒木さんに頼みがあるそうなんですけど』
サムはそう言うと、おれを伺った。おれは、しばらく黙っていた。口を開こうとすると、吹き出しそうだから黙っていたのである。『どうかしたんですか?』 サムは、そんなおれの様子をちらと横目で見て、
『へんですね。まだ酔って居るんですか』
そう言うと、おれの顔を覗き込んだ。
『いや、ちょっと考え事をしていた。でっ、頼みと言うのは?』
やっと笑わないで喋れるようになったが、それでも、まだ小刻みに肩が震えているのが分かる。
『彼は無類のカーマニアなんです。それで、日本車の情報が知りたくて、黒木さんが日本に帰ってから、カー雑誌を定期的に送ってくれませんか、と言う事なんです・け・ど…』
サムは、その後どう言おうかと、迷っていた様子だったので、おれは口をはさんだ。
『そんな事お安い御用さ。だけど、カー雑誌なんて何十冊も出版されてるだろう。おれは車なんて走れば良いと思ってるから、実際にどんな雑誌がマニア向きなのかは分からないぜ』
『そこなんですけど、日本に帰ったら、面倒でも調べて連絡が欲しいんです!どうでしか?…』
サムとゴードンは、上目使いでおれの顔を見た。
『まあ、そんな事ぐらいなら、いつでも協力するよ』 おれがうなずいて言うと、二人はお互いに顔を見合わせ、少年のような喜び方をした。
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