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随分と話し込んでしまい、どのくらい時間がたったろうか。気がつくと店に居た客もまばらになり、折角のエビ料理も冷めてしまった。おれは窓際に椅子をずらして、ヨットハーバーを眺めた。真新しい空色の船が、ガラス張りの前面を、太陽の光に輝かせている。風があるのか、船は不安定なリズムで大きく浮き沈みさせられている。
おれは、いつの間にか心細くなっているのに気がついた。ソリッド・ブラスのジッポーを右手に持って、明け口をカチャカチャと鳴らしながら、考え込んでしまった。そして、自分に問いただすような感じで、サムに聞いた。
『やっぱり先立つものがないと、したい事も出来ないな』
『お金の心配でしか』
『ああ、いざチャンスが巡って来ても、資金がなけりゃ、どうにもならない』
『だったら、こっちでアルバイトすればいいじゃないですか』
『アルバイトと言ったって、何が出来ると思う。まさか、おれにレモネード売りなんてしろって言うじゃないだろうな』
おれが、苦笑いしながら言うと、サムも、プッと噴き出してかぶりを振った。『まさかぁ。そんなんじゃなくて、もっと面白い稼ぎ方があるんですよ』
そう言うと、また、クスクス笑い、おれを上目使いで見ると、然り気無く付け加えた、
『言いますけど、笑わないでくださいよ』
『だって、自分で笑ってるじゃないか』
おれはサムを指差して言った。
『実は客引きなんですよ』 おれは、面喰らった。
『ちょっと待て。おれはホモじゃないぜ』
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