第1章

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ホテルへ戻ると、おれは着替えを済ませ、出かける準備を整えた。その間、サムにキャルビスタ社へ予約の電話を掛けてもらった。 サムは暫く話をしていたが、受話器を置くと、部屋中響くように甲高い声をあげて、陽気に言った。 『黒木さん4時にOKです。今日はツキがいいですね』『ああ、歯車が回り始めたようだ』 時計をみると、丁度2時を回った所だった。まだ間隔があったので、予め所在地を地図で調べておき、おれ達は、ダウンタウンへ出てみる事にした。 これはサムの意見で、もっぱら日本人観光客はダウンタウンにある規模の大きなホテルに泊まっていると言う事で、稼ぎ場の下見とでも言った具合である。しかし、観光客が真っ昼間にホテルの周りに居る訳はない。結局、大発見と言う程の情報は得られなかった。 約束の時間も近づき、おれ達はキャルビスタ社へフリー・ウェイを走って駒を進める事にした。 アスファルトの広い道路から横道へずれるような感じで、砂利の並木道を入って行くと、家並みが高級住宅街を思わせるたた住まいに出る。そこから右手にかけて、会社が並ぶ建物なのだが、どう表現したらいいんだろう。黒い煉瓦で平屋造りのビルディング…… いや、アンティークな建物と言おうか、兎に角同じ顔を覗かせて重厚な建物が、遥か彼方にまでつづいている。 建物の前を隔てた道路の向こう側には、赤土色の広々とした運動場があり、アメリカン・メジャーリーグを担うのか、少年達が野球をしているのが見える。すっかり右側通行にも慣れて、ドライブは快適だった。
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