後日談 半年後 日下視点

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後日談 半年後 日下視点

 タコ部屋から逃亡して半年が経った。  東京に帰って俺はまず大学に行き、所属していた研究室の教授に謝って、拝み倒した。卒業させてくれ、と。けっこう緩い教授だったから、なんとか卒研をパスさせてもらえた。というわけで、俺は無事に内定を貰った会社で働いている。入社して一週間だ。OJT期間で、そんなに今は忙しくない。今日も定時であがれた。といっても、帰宅したのは二十一時。始業が十一時で、一般の会社より遅いのだ。  玄関の鍵を開け、ドアを押すと、室内には明かりがついている。それが今は当たり前になっている。靴を脱いで中に入ると、キッチンから「おかえり」の声。吉田が鍋で何かを作りながら、こちらを見ている。俺は「ただいま」と返して、彼の傍に寄った。鍋を覗くと、人参、豚肉、インゲン、じゃが芋を使った肉じゃがが湯気を立てている。 「うまそう」  吉田は実際、料理が上手い。一人暮らしをしていた一年ちょっとの間に自炊をしていたから料理は得意なのだそうだ。俺は自炊していなかったから、半年前はカレーとかラーメンしか作れなかった。吉田と暮らし始めてから、彼に料理を教えてもらってレパートリーが増えた。     
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